端緒は五十の声
30、40と、歳の区切りに歌を作って来ました。ある日、それを覚えていた方より、50も作ってみたらどうかと声をいただきました。
ならば2022年、自分と同じくらいの年代の人たちに向かって、お疲れさま、でもこれからだよ、道半ばだよ、どうかご無事でと声をかけるような作品集を作ってみようと思いました。
時代
なんじゃなんじゃなんじゃそりゃ
どうせこれもそうだろ
大きな声じゃ言えないやつだろ
別に恥ずかしいことなんかないけど
何をどおしたらばえるのか
時代はいつだって未来の大人たちのもの
いま流行りのいまは今の大人たちのものじゃない
なんじゃなんじゃなんじゃそりゃ
どうせこれもそうだろ
正面切っては憚られるやつだろ
いやもう恥ずかしいことなんかないけど
何がどうなりゃえもいのか
時代はいつだって未来の大人たちのもの
いま流行りのいまは今の大人たちのものじゃない
なんじゃなんじゃなんじゃそりゃ
おきもちだけでも
特別目をひく変わったことはもうしないよ
お金にたよらず時間をかけて愛にしよう
僕らは古びていく膝も腰も軋ませ
それでも目指す前をむいて
きみが好きと言っていいかな
きみが好きと言えばいいんだな
毎日はつづくけど新たな気持ちだよ
いつかは流行りに与する時が来るのかな
わがままするため冷たい風に身を晒して
履きなれた靴のように着古したシャツのように
お互い互いが一部全部
ありがとうって言っていいかな
ありがとうって言えばいいんだな
毎日は続くけどせめてそれだけは言おう
ただただただただ
きみが好きと言っていいかな
きみが好きと言えばいいんだな
毎日はつづくけどせめてそれだけは言おう
アグリ
世話の妬ける人の気も知らずに
ただ太陽と水をたより
背を伸ばし手を伸ばし
いずれ僕を抱きとめる
24時間ごとに雨が降るわけじゃないから
僕は水をあげる
手間の懸る人の気も知らずに
ただ太陽と水をたより
背が伸びて手が伸びて
そして僕は只管に
24時間ごとに光がさすわけじゃないから
僕は声をかける
夢のような夢の方へ繰り返す繰り返す
十年がんばっても百年がんばっても
実りあるとは限らない
僕は水をあげる僕は声をかける
おにぎり
平和を願うわりに不思議と嫌なことってあるのよね
だから心に描くのよあらまほしき物語
あなたを想いにぎる白い飯
あなたが笑う顔を作るため
思い通りの毎日なんて夢のまた夢のゆめ
今朝も両手で描くのよあらまほしき物語
あなたを想いにぎる白い飯
あなたが笑う顔が好きなので
新しい友達に出会えば明日がまた楽しみに
だからお腹が減らぬようあらまほしきおにぎりを
あなたを想いにぎる飯
あなたが笑う顔が好きすぎて
あなたを想いにぎる飯
あなたが笑う顔が見たいだけ
はしる理由その一
腿が上がる幸せを
今朝もひとり噛み締める
永遠に続く命より
怪我をしないからだ
涼しい顔
押しつけがましくならぬよう
おきもちばかりが届くよう
あなたをおもう気持ちは
いつも溢れるほどだから
ようやく覚えた涼しい顔
嫌味に聞こえてならぬよう
心を砕いたつもりです
あなたをおもう気持ちは
いつもほどほどでは済まず
今日も巧みに涼しい顔
決して重荷にはならぬよう
期待のしすぎにならぬよう
あなたをおもう気持ちは
いつも手加減しているよ
今日も上手に涼しい顔
いい目覚めのために
今日から心を入れ替えて
いつでもありがとうが言えるように
言葉にするほど虚しいものは
言葉にしない怒り悲しみ
言葉にしない恐れ憎しみ
いわれのなかった気の毒をも
笑って受け止めるいい目覚めのため
後になるほど悔やまれるから
言葉にしない妬みや恨み
言葉にしない悩み苦しみ
意地でも言葉にして来たのは
良からぬ癖だと捨ててゆこう
言葉にならないものはそのまま
言葉にしない思い煩い
言葉にしない惑いや迷い
言葉にしない怒り悲しみ
言葉にしない恐れ憎しみ
言葉にしない妬みや恨み
言葉にしない悩み苦しみ
言葉にしない思い煩い
言葉にしない惑いや迷い
なつのおわりぬ
朧月影たつ水面目を凝らすのも忘れつつ
風が運ぶか波が誘うかいずれにしても夏の終わりぬ
わたしはおもうあのひとを
わたしはおもうかのひとを
霞む山陰流れ雲時があらわにするを待つ
風が運ぶか波が誘うかいずれにしても夏は終わりぬ
わたしはあえるあのひとと
わたしはあえるかのひとと
波風雨は夢のごといともしずかに陽は落ちぬ
風が運ぶか波が誘うかいずれにしても夏の終わりぬ
わたしのおもうあのひとの
わたしのおもうかのひとの
おしえ
かつてここらできついことあったって
誰に訊いたって真相は胸の中
どこにでもある話特別なことはねーと
春のようです春のようです
いつのまにいつものように
会いたかった人も冬を越えて
示し合わせたように顔を見せる
あいたかった あいたかった
僕らあのとき自然から学んだ
ひとりの時間増えたのはひとりごと
空を見て空を見て思い出す人の名よ
春のようです春のようです
いつのまにいつものように
会いたかった人も無事なようで
示し合わせたように顔を見せる
あいたかった あいたかった
ヒトはヒトをお互いに思い出せる動物よ
春のようです春のようです
いつのまにいつものように
会いたかった人も生き延びたね
示し合わせたように顔を見せる
あいたかった あいたかった
はしる理由その二
同じ汗をかくのなら
痛い時にでるやつや
心配すぎてでるのより
さわやかなやつがいい
わすれてたでしょ
愛されたくてじたんばたんして
そっぽむいたと思ったら急に噛みついたり
君の隠してる過去に今さら感謝
僕が君に主役を任せたらどんどん大人になったね
今やよその心配ばかりして自分のこと忘れてる
おめでとう忘れてたでしょきみの誕生日だよ
愛されたくて求められたくて
大人しく撫でられるなり急に牙を見せたり
君を泣かせた時間に今さら感謝
僕が君に主役を任せたらどんどん大人になったね
今やよその心配ばかりして自分のこと忘れてる
おめでとう忘れてたでしょきみの誕生日だよ
君を泣かせた孤独に今さら感謝
僕が君に主役を任せたらどんどん大人になったね
僕はそばにいられたらいいんだこれだけを言う役になる
おめでとう忘れてたでしょきみの誕生日だよ
おかえりなさい
心配ないよなんとかなるよ
うまくはないけど死にはしないよ
身体のことやお金のことね
あることないこと繕うものよ
最後に君を見失った
ありふれた景色を忘れない
おかえりなさい おつかれさま
おかえりなさい 無理はするなよ
きみのなかで忘れかけてた
何かがお待ちかねだよ
細かいことが気にはなるけど
本当のところすぐ忘れるよ
元気でいてね気をつけてねと
出てくるのはただいのりやねがい
あれきり君に会わず仕舞い
忘れたら忘れたで困らずじまい
おかえりなさい おつかれさま
おかえりなさい 無理はするなよ
きみのなかで忘れかけてた
誰かがお待ちかねだよ
生きるかぎり人は巡る
愛するものもうつりかわるよ
懐かしい場所懐かしい人
いつか懐かしい自分にも
おかえりなさい おつかれさま
おかえりなさい 無理はするなよ
もて余してあの日諦めた
何かがお待ちかねだよ
ありがとう
ありがとう
いつもの道が今日は好きに思えた
隣にきみがいただけで
ありがとう
出会ったことは偶然でしかないけれど
永遠なんてないけれど
ありがとう
冷たい夜が待ち遠しくも思えた
隣にきみがいるだけで
ありがとう
ぼくの手を握りその胸に引き寄せた
永遠なんてないけれど
ありがとう
生きてくことが何故だか楽しくなった
隣にきみがいるだけで